国交省概算要求から見えてくる、
政府が見据える物流革新の道筋
2024年はすでに後半戦を迎えていますが、物流の2024年問題への対応はこれからが本番だと考えて良いでしょう。改正物流効率化法の施行など、具体化する規制的措置に対してどのように取り組むのか、各事業者にもより具体的な取り組みが問われる局面を迎えます。
物流革新は、国としての重要課題だけに、来年度の課題解決へ向けた取り組みもさらに強力に推進していくこととなります。国土交通省は8月27日、物流・自動車局関係の主要施策別の予算概算要求を明らかにしました。前年比の1.6倍となる209億円を物流関連費用として拡充し、物流革新へ向けて現状の課題をどう捉えているか、解決へ向けた糸口をどう考えているかも浮き彫りとなっています。
今回、物流・自動車局の概算要求では、予算の4本柱として「物流の革新や持続的成長に向けた中長期計画を踏まえた取組の推進」「脱炭素社会の実現に向けた自動車分野のGXの推進」「自動車分野のDXや技術開発、人材確保等による事業基盤強化等の推進」「自動車事故被害者救済、事故防止・安全対策の推進等」という4項目が重要課題が示されており、各領域の課題に予算を投下することから物流革新での成果を積み上げていくこととなります。
なかでも、「物流の革新や持続的成長に向けた中長期計画を踏まえた取組の推進」は、政府が策定した「2030年度に向けた政府の中長期計画」に基づく物流の効率化や、DXなど、これまで提起された物流課題の更なる推進を目指しており、すでに各社の取り組みの進捗状況を確認する機会ともなるのではないでしょうか。そこで、今回大きな予算を充てられた取組項目について整理してみましょう。
モーダルシフトなど、中長期計画目標の達成に向けて成果が求められる
物流関連に予定されている項目の中でも、特に前年比3.8倍、35億2500万円の予算要求となったのが「物流の効率化」に関わる各項目への取り組みです。
「モーダルシフト等の強力な推進」に向けては、大型コンテナやシャーシなどの導入経費支援、モーダルシフト運用の計画策定費や初年度運行経費などに5億9900万円を予定しています。2030年度に向けた政府の中長期計画において「鉄道(コンテナ貨物)、内航(フェリー・RORO船等)の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増することを目指し、官民協議会で継続的にフォローアップを行うとともに、3年後をめどに見直しを実施する」ことが示されるなど、物流効率化と脱炭素の両面での効果が大きいモーダルシフトが、国にとっても重要課題に位置付けられていることがわかります。リードタイムの変更なども伴うモーダルシフトは、コストの観点だけではなく持続的な物流の維持や環境対策への取り組みを企業価値と捉えることが促されていると言え、荷主や物流事業者の対応も問われています。
また、その他の「物流の効率化」では、脱炭素へ向けて次世代エネルギー導入を推進する「物流GXの推進」に6億円、AIによる貨物情報マッチングや自動運転トラックの実装に向けた「物流DXの推進」に5億4500万円のほか、「物流標準化・データ連動の推進」「多様な担い手の確保・育成のための環境整備」「物流拠点の機能強化等」「自動車運送事業の安全対策の推進等」など物流の効率化に関する項目に注力することがわかります。
規制的措置だけではない、改革の補助事業を事業成長のチャンスに
「商慣行の見直し」としては昨年度比2.3倍の1億4900万円が、改正物流法の施行に向けた体制整備や、多重下請構造の是正、標準的運賃活用の実態調査、トラックGメンによる荷主対策の強化に充てられ、物流業界の構造的問題への取り組みを強化します。また、再配達削減のための「荷主・消費者の行動変容」対策として前年比9倍、1億4300万円の予算を充て、負荷の少ない配送指定によるポイント還元事業や、多様な受け取り方への体制作り、荷主等による物流改善の取組状況等について見える化を行い、企業の努力を消費者や市場からの評価につなげる仕組みの創設に向けた調査・検討を行う「中長期計画を踏まえた取組の効果等のモニタリング」にも4400万円の予算を充てています。
このまま物流課題に何も対策を講じない場合には、2030年に輸送力が34%不足するという試算に対して、政府は「荷待ち・荷役の削減」「積載率の向上」「モーダルシフト」「再配達削減」などで対応することを「物流革新に向けた政策パッケージ」で明示していますが、こうした取り組みの達成状況確認や見直しなどの調査にも予算を投下していくことで、具体的な成果を示していくこととなります。
また、産業の国際競争力強化、消費者需要の高度化・多様化に伴う貨物の小口化・多様化への対応、 環境負荷の低減及び流通業務に必要な労働力の確保を図ることを目的とした「財政投融資を活用した物流施設・DX・GX投資の支援」事業に170億を予定、物流効率化法に基づく大臣認定を受けた事業において、物流拠点や物流DX・GX関連設備の整備に対しての支援が打ち出されています。法改正による規制的措置と並行して、政府の改革後押しが推進されることをチャンスとする企業も多いのではないでしょうか。
これらの物流関係の予算要求額拡充を指針とすることで、効率化ツールのベンダーなどにとってはまさにソリューション開発の注力ポイントが明示された形です。効率化だけではなく、2050年のカーボンニュートラル実現へ向けた脱炭素の取り組みをさらに推進させる意向や、安全対策への取り組み強化も大きなテーマとなっていることが浮き彫りとなっています。すでにこうした取り組みに着手している事業者も、新たな課題として取り組みを考えている事業者も、意義ある改革へ向けて、補助事業なども積極的に活用していくことも、重要な事業戦略なのかも知れません。